アナタはなぜチェックリストを使わないのか?をまとめる

目次

概要

アナタはなぜチェックリストを使わないのか? を読みました。

チェックリストの効果や作成、導入方法について語られている書籍で大変有意義な内容でした。 一方で、本書はチェックリストの体系的な説明ではなく、多くの事例を通じてチェックリストの有用性を布教することに重きが置かれていそうです。 そのため、自分のために本書で記載されていた (自分が感じた) エッセンスを抽出しました。

実際には記載していないことも概してこういうことだろうと記載している箇所などもあるので、正確な表現や詳細な意図は書籍を参照してください。

対象読者

  • 自分
  • アナタはなぜチェックリストを使わないのか?を読むか迷っている人

チェックリストの目的

背景: 複雑さの増大に伴ってチームワークが重要になった

  • 人類の知識や技術が進歩するに従って、解かなければいけない問題やそれに伴う手順、意思決定などが複雑化している
    • 例) 研究が進むにつれて有効な治療法が増加していく医療現場
    • 例) ITが発達していくにつれて取引の種類や頻度が増加する金融領域
  • 多くの物事の複雑さは個人が対処できる範囲を超えているため、専門領域の細分化が進んでいる
    • 例) 建設現場から棟梁を追い出した

用語の定義

  • チームメンバー (メンバー): 一つの目的のために集まった集団。IT文脈ではないため、かなり流動的に変化することを想定している。飛行機の乗務員や手術のメンバーは毎回変わるらしい。
  • 一時停止点: チェックリストを開くことが義務付けられたタイミング。

チェックリストの目的

  • 複雑な問題に対するミスを防ぐ
    • 記憶や個人への依存を軽減する
    • チームワークの早期構築、コミュニケーションの活性化を促す
  • (副次的に) 業務を効率化する

記憶や個人への依存の軽減: 見逃しや重複を防ぐ

専門化が進んでもミスをする可能性は依然として高いです。

  • 複雑さ
    • 専門化が進んだとはいえ、各専門領域だけで十分に複雑である。
    • 専門化によって、専門家同士が連携して解かなければならない問題領域が増えた。連携が必要な場合はコミュニケーションの複雑さが重なる。
  • 心理状態
    • 有事の際など強いストレスにさらされた状態で、人は冷静な判断能力を失う。
    • 千載一遇のチャンスに思える状況において、人々は熱に浮かされる。

信頼できるチェックリストを確認する規律が守られれば、やらなければならないことをやっていなかった事態を防げます。また、重複して同じことを実行してしまうことを防げます。

さらに、チェックリストにより順守が必要な業務プロセスやマニュアルが想起されます。 規律に意識を回帰させることでミスを減らすことが期待できます。 シンプルな一つの規律「一時停止点になったらチェックリストを確認する」のみを徹底して、チェックリストに適切な規律を想起させる内容を含ませることで、全体的な規律の徹底に繋げることが可能です。

チームワーク: 情報を適切に共有する・不測の事態に備えて準備する

専門化が進んだことは同時に、個人が天才やスターではなくなってきたことにつながります。 昔の医者、パイロット、棟梁などは自身の能力で全ての領域を把握できており、彼らに従うことが良いチームワークで、物事の成否は彼らの双肩にかかっていました。 しかしながら、専門性が細分化された現代においては1人の能力で物事を進められることの方が少ないです。 結果として、1人の天才よりも規律に従ったチームの連携が重要な時代になりました。 (依然としてメディアが個人にフォーカスを当てたがるのは問題)。

専門化が進んで個人が対処する領域が狭まったことは、物事自体の複雑さが減ったことを意味しません。 むしろ、情報の連携が必要になった分、物事単体よりも複雑さの総量は増加しています。

情報の適切な連携にはチームメンバーが適切な関係性でいることが重要です。

  • チームメンバー全員が物事の背景や目的に対する共通意識を持っている
  • 自身の専門性に対してチームメンバーが責任を持っている
  • 他のチームメンバーの専門性を尊重および理解し、他の専門領域に必要と思われる情報を提供できる
  • 情報を積極的に交換するための心理的安全性が確保されている。

チームワークが重要な現代において、チームビルディングやコミュニケーションは最重要ステップである一方で、各ステップの裁量部分が大きかったり、チームメンバー間の権威が対等でなかったり、あるいは単純に面倒くさいと感じて消極的なメンバーがいることで、実施されないことも多いと感じています。 チームビルディングを徹底するためには、周知や訓練よりも強い強制力が必要と考えました。

チェックリストによって確認事項を明らかにしたコミュニケーションが約束されること、またチェックリスト自体を運用することで必然的にコミュニケーションの頻度が上がることで、チームワークの醸成につながります。

特に見逃されがちな情報についての共有機会を機会的に得られる点は不測の事態への備えとして重要な観点です。 予期しない状況につながりそうな懸念についての状況共有や、予期しない事態に陥った時の役割分担の事前定義など、もしもの時でも迅速に対応するための準備を確実に行うことができます。

最後に、チェックリストの運用を規律の一部とみなすことで、チーム間の権威の差を埋めることにもつながります。 以前は看護師が外科医の判断に口を出すことはかなりの勇気が必要でしたが、チェックリストを事前に定めておけば発言の抵抗が小さくなります。 (これを実現するためには組織としてチェックリストを最上位の権威と定める合意が必要と思われます)。

効率化: 抜け漏れなしを再現性高く最短で

ミスを防ぐための取り組みが結果として効率化につながることもわかりました。

  • 元々業務効率化のために練られているプロセスを毎回抜けもれなく実施することにつながるため、結果として総合的に早くなる
  • やるべきことをやったことがわかるので、副次的に結論が出ていない要因が感情的な要素 (なんとなく不安など) であることに気付ける

チェックリストの要件

チェックリスト作成のためのチェックリスト

  • 明確な目的が定義されている
  • 仕事の流れを妨げない
  • 確認の運用がはっきりしている
    • タイミング
      • 行動のち確認: 各自の知識と経験をもとに行動した後に完了を改めて確認
      • 読むのち行動: 確認と同時に行動を実施
    • 誰が
      • 行動した本人
      • 行動の監視者 (E.g., 看護師、副操縦士)
    • どのように
      • 声出し確認のみ
      • 記録を作る
  • チェックリストを使うタイミング (一時停止点) がはっきりしている
    • 一時停止点が事前に決まってチームメンバーが認知している
    • 一時停止点で適切なチェックリストを見つけられる
    • チェックリストを必ず使用する・信頼する
  • リストの各項目は以下の特性を備えている
    • 手順として必須である
    • 見逃される可能性が高い
    • 見逃しを防ぐ手立てが当事者の注意以外ない
    • 具体的な行動を促している
    • 声に出して確認できる
  • 目安として10項目未満におさまっている
  • チームメンバー全員が参加する
  • 作成日と更新日が記されている
  • 上記の要件を満たしていることを確認するためにチェックリスト作成者とチームメンバーとの間にFBループが構築されている

注意点

  • チェックリストはマニュアルではない: マニュアルにおける重要な項目であったとしても、見逃される可能性が低いものは記載しません。チェックリストはまず使われることが重要であり、短く簡潔にまとめることが優先されます。チェックリスト通りにすれば大丈夫というものではなく、メンバーを補助するツールとして運用します。
  • チェックリストの使用者はバカではない: 「マニュアルではない」と似ていますが、改めて短く簡潔にすることを優先します。過度に説明的にならないようにします。チームメンバーを信頼します。
  • チェックリストは押し付けるものではない: チェックリストの意義を納得した上でメンバーが使用しないと効果が薄いです。チェックリストの目的はチェックリストの使用ではなく、チームワークと規律の文化の醸成です。チェックリストは想起のきっかけにすぎないため、メンバーの積極的な姿勢による応用がないと有効に機能しません。

Q&A

具体的に重要だがチェックリストに載せないものはどんなものか?

参考書籍の事例を紹介します。以下の引用は飛行機の操縦中に貨物庫のロックが故障したサインを一時停止点として使うチェックリストに対してのものです。

だが、実はチェックリストに載っていない手順がたくさんあった。管制塔への連絡、客室乗務員への問題報告と打ち合わせ、安全に着陸できそうな最寄りの空港を調べることなど、… (中略) ブアマン氏たちは、それらの手順を意図的にチェックリストに含めなかったそうだ。どれも重要な手順だが、それらが必要な状況で、プロのパイロットたちがそれらを忘れるということはほぼない、ということがわかっているのだそうだ。だから、チェックリストに入れる必要がない、いや、むしろ入れるべきではない、ブアマン氏は語った。

有用性が確認されている事例は?

書籍を読んでいただくと大量の事例を知ることができます。 ここでは一例のみ挙げておきます。

1935年にアメリカ陸軍航空隊の戦闘機のコンペがありました。 ボーイング社の航空機が機体スペックでは圧倒的だったものの操縦が複雑すぎた結果、パイロットのミスにより墜落事故が発生してしまいました。 非常に優秀なパイロットが操縦していたため、単なる訓練で対応可能な複雑さではないと結論づけられました。 一方で、スペックが群を抜いていたため、諦めきれない陸軍内では現実的に操縦できる路線を探る動きがあり、結論としてチェックリストが作成されました。 簡潔なチェックリストの導入の結果、事故は一件もなくなり、陸軍は大量受注を決定しました。 第二次世界大戦で活躍した「空飛ぶ要塞」はチェックリストによって実用化されたそうです。

その他、建設、医療、投資の領域などで実際にチェックリストが活用されている事例が書籍で紹介されています。

感想

  • 本書の仮説は自分の好きな技術書と整合性が取れていてすっと理解できるものでした
    • (APoSDより) 複雑さに対応する手段は分割統治と抽象化のみ
    • (GoogleのSWEより) 「天才神話」の否定
  • 基本的な考え方はそのままソフトウェアエンジニアリングに応用できると思います
    • 複雑さとの戦いはダイレクトにソフトウェアエンジニアリングの課題です
    • なんならいくつかの本で参考文献になっていたはずです
  • 本書でいうところのチェックリストは、一般にチェックリストと言われているものよりも狭義なように思います
    • 実際にはテストケースの一覧などはチェックリストとして機能しているものの、これはどちらかというと本書でいうマニュアルに近いものでしょう
    • 建設現場のスケジュールがチェックリストとして機能する話があったので、この辺りは書籍の中でも整理がついていない箇所かもしれません